5月3日


(後編)

バイクを放り投げた後、
私は、頭を下にして、真っ逆さまにガケを落ちて行きました。
幸いガケはフカフカのサンドなので、落ちてもケガはありません。
で、まず思ったことは、
「バイクは無事か・・・?バイクは」
落ちたガケをそのまま登ろうとしましたが、急斜面なので人間の足ではとても登れません。
オフィシャルと思しき人が教えてくれます。

「あっちの緩やかな坂を上って」

坂の上で横倒しになっているシェルパを引き起こし、クラッチを切って押してみますが、
なぜか動きません。

「なんで動かないんだろう・・・」

オフィシャルの人、
「ここは危険だからはやくバイクを移動させて」

オシシャルさんも、バイクを安全な場所へ移動させるのを手伝って下さいます。
二人で押した所、何とか動きました。
何とか左端の安全な場所まで無事に移動させることに成功。早速、バイクの損傷状況の確認を始めます。

まず、バイクが動かない件ですが、ブレーキキャリパーの損傷を疑ったのですが、
原因は、右ハンドル側のブッシュガードが折れ曲がってブレーキレバーを押し下げていただけでした。
ブッシュガードをたたいて、元通りに修復。10秒で修理完了

その時、オフィシャルさんから何か部品を渡されました。
で、何かなと見ると、それは「テールランプ」でした(笑)

バイクは垂直に立った状態で着地したため、
テールランプが地面に激突して外れたみたいです。

で、そのテールランプ、レンズは、割れたりすることもなく、
完璧な形で残っています。
いやー。さすがにカワサキです。
クラッシャブルなのに壊れない・・・

では、ここで、事故現場の遺留品から事故発生時の状況をシミュレーションしてみましょう。
(提供:林道戦隊 科学特別捜査隊)

恩知らずのご主人様に、坂の上に放り出された後、
あわれ、空中に垂直に立った状態のシェルパ君、
重力の法則に従って、地面に激突するしかありません。
が、テールランプは垂直に地面に激突したのではないようです。

もしも垂直に激突したとしたら、いくら頑丈さを誇るカワサキ車といえども、
テールランプは木っ端微塵になっていたでしょう。

恐らく、バイクは微妙に斜めに傾きながら地面に接地したのだと思われます。
テールランプが地面に激突した時、斜めから加わった力により、たぶん
まず、テールランプの根元の部分がカパッと外れるような感じで吹っ飛んだものと思われます。
吹っ飛んだことが幸いして衝撃力が逃げ、レンズは破壊されなかったのです。

同じことは、激しく激突したと思われる右ハンドル周りにも言えます。
 ・ブッシュガードは大きく曲がっており、激突時の衝撃の強さを物語っている。
 ・そして、ブレーキレバも先端の方がちょっとだけ曲がっています。
 ・しかし、ハンドルには曲がったような後は見られない

ということで、ブッシュガードとブレーキレバーが絶妙な具合で壊れ、
落下した時の衝撃を吸収したようです。
いやー、こういう所に、クラッシャブルボディの設計思想が現れています。

すばらしいぞ!俺のカワサキ!

という訳で、科学捜査隊の現場調査も終了し、
テールランプのリアフェンダーへの取り付けを試みます。
が、どうもボルトの固定台座ごと引きちぎられてしまったようです。
フェンダーへ取り付けることはできないことが分かりました。

仕方がないので、ウェストバッグからタイラップバンドを取り出して、テールランプがバイクから落ちないようツールバッグに仮止め。
グッド、グッド。これで走り続けられます。

道は美馬の裏山の稜線へと駆け上がって行き、いよいよ森の中のバイク一車線分のウッズランです。
あの池町選手の手によるルート。どんな魔物が潜んでいるんでしょうか。

ちょうど番頭さんのパリダカが追い着いて来ました。一車線なので、先に行って貰いました。
しかし、番頭さん速いですねー。どんどん離されてしまいます。

さて、ウッズランですが、最初の内はあまり問題はありません。
所々にマディが散在していますが快調に走ります。
しかし、すぐに最初の難所が現れました。スタックしているエントラントがいるようで、
みんなでバイクを止めてしばし休息。
スタックしているバイクは、エンジンをふかしても、タイヤが空回りしてしまって発進できないようでした。
オフィシャルさんが必死に押していますが、やっぱり上がりません。
暫く待っていましたが、どうも本格的に上がりそうにないので、
僕らもバイクを降りて助けにかけつけます
で、みんなで押したり引いたりして、無事脱出に成功。

そして、程なく、次なる難所が現れます。
回転半径50cmくらいの小さなS字カーブ(笑)
道には見事なV字溝が刻まれており、S字のカーブの真ん中に木が生えています(笑)
ここは、皆ハマってましたねー。
V字溝をオンザレールで行くと、やがてバイクがV字溝にロックされてしまい、
タイヤが空回りして、押しても引いても動かなくなります。
でもって、バイクがハマる都度、またまた全員で救助です。
私もキッチリハマりました・・・。
どうも、走っているより救助している時間の方が長いです(笑)

そして、次は、直径50cm位ありそうな巨大な倒木が横たわっているセクションです。
しかも進路に対して見事に45度斜めに転がっています。
倒木の前は滑りやすい登りのマディ。
迂回路があるようですが、ここは一番、倒木越えに挑戦します。

まず、倒木越えの鉄則として、「木に対して90度の角度で入る」があります。
ふふふ。これさえ守れば何とかなるさ。
しかし登りはマディです。なかなか思うようにはなりません。
木に対して90度にしようとすればするほど、バイクは木と平行な角度に・・・(笑)
で、結局、倒木にピッタリと寄り添ってしまいました。
「いやー、別に倒木が好きな訳じゃないんですが」

仕方がないので、もう一度やり直しです。
まず斜面に垂直に倒木の所へ。
ここで、よっこらしょとバイクのリアを持ち上げて、木に対して垂直な角度にしました。
うん。これで第一段階はOKです。

そして、次は気合を入れて倒木へ突撃です。
かろうじて前輪は倒木を越えますが、後輪が越えなくて、亀の子状態に。
しかし、倒木の先が下りなので、何とか独力でバイクの後輪を持ち上げ、重力の助けを借りて何とかパスできました。
いやー、やっぱり独力で越えると嬉しいですね。
(厳密には重力の助けが大きいのですが・・・。
 ありがとうニュートン。いや、ありがとうアインシュタイン

そして、最後に斜度20度位の登りが現れました。
坂の途中にバイクが1台横倒しになっています。

早速、坂を上り始めると、ここもマディです。
しかも、かなり斜度があるので、止まると再発進はほぼ不可能。
絶対に止まらないよう、アクセルを開け続けます。
アクセルを開けるとリアは空転しますが、シェルパは軽量なので、空転するタイヤの摩擦でかろうじて登って行けます。
ここはタイムロスなく無事クリーン!

後は、それ程の難所はなく、狭い一本道を淡々と下りて行きます。
アルバイトの後なので、風が気持ちいいです。
こんなコピーありましたが、まさにその通りです。

山の冷気とフィトンチッドを思い切り吸い込んで、こころとからだのリフレッシュ。スーパーシェルパの旅。
http://www.kawasaki-motors.com/model/supersherpa/

そして、美馬のSS9を無事ゴール。
タイムの方は、1時間近くかかっているようです。
このタイムでは、かなり順位は後退するでしょうね。
「ま、目標は完走だからな」と自分に言い聞かせます。

さて、SSを抜けてゴールした後、テールランプを修理します。
まず、リアのフェンダーを外して、テールランプのコネクターを接続。
スイッチをONにすると、テールランプ問題なく点灯します。ほっと一安心です。
そして、テールランプをガムテープでフェンダーに固定。
何とか走れる状態になりました。

修理も終わったので、早速美馬を出発。
まず美馬から香川県へと抜けて、大窪寺というお寺の駐車場が最初のCPでした。
お寺の駐車場でスタンプを貰って出発しようとしたら、#3沼田さんがちょうどCPに到着。
で、その沼田さん、TDN2004では、林道戦隊の森田さんに大変お世話になったそうで、
ぜひ「林道戦隊ステッカー」をほしいとのことでした。
という訳で、最後の一枚のステッカーを沼田さんへ。
これでステッカーは完売です。これで販売ノルマ達成。

CPを出ると、観光客の人であふれるうどん屋さんの前を素通りして、
香川県の田舎の道をトコトコと走ります。
ところで、香川県って、四国の中でまたちょっと風景が違います。
何と言うか、風景が丸いんです。高い山や深い谷がないからでしょうか?

その内に、道は、再び四国山地へ、名峰剣山へと登って行きます。
そして、剣山の山頂を少し下りた所がCP2です。
CP2は広いパーキング。TBIのエントラントのバイクが一杯です。
ハンコを貰って出発の準備をしていたら、
なぜかパトカーが現れました。
パトカーから警察官が下りてきて、SSERのオフィシャルの人にあれこれと質問をしていましたが、
その内に納得したみたいで、引き上げて行きました。

さて、CP2を出発して剣山を下りると、「奥祖谷のかずら橋」と言う橋が現れます。
かずら橋と言えば、昨日も出現しましたが、それとはまた違う、もう一つのかずら橋です。
ここも観光客であふれていました。

奥祖谷。
その地名からは、「秘境」、「桃源郷」というイメージが浮かんできます。
恐らく、秘境にあこがれて、はるばる遠くから車を運転して到着したこの場所で、
結局普段と変わらない人ごみを見て帰っていく観光客の人たち・・・。
何かちょっとかわいそうです。

そんなことを考えながら、道端のそば屋さんへ入ります。
そば屋さんに入って、席に座ると、ちょうどすぐ前の席には、
若い夫婦と1才くらいの小さな赤ちゃんが座っています。
で、小さな赤ちゃん、僕が席に座ると、小さな目を大きく見開いて、
じーーーっと僕の顔を見つめます。
若いおかあさんが、
「ほら、こっちむいて!ごはん食べて」と促しますが、
よほど僕のことが気に入ったみたいで、ごはんそっちのけで、
僕の顔を、じーーーーーーーーと見つめたままです。

「すみませんねえ」
「いや、いいんですよ (^_^); 」

そんな会話を交わします。
ひょっとして、僕って、この子の初恋の人
にっこり笑って、「いないいないばー」 をしてあげます。

昼飯も食べ終わり、出発して暫く走ると、峠のうどん屋さん出現。
さらには、この峠、景色最高。バイクを止めて、景色を眺めます。
で、うどんですが、直前で売り切れとのこと。
食べた人の話では、けっこううまかったとのことです。

峠の下りで、番頭さんに追いついたので、
暫く番頭さんの後ろを走ります。
その内に、そろそろガソリンが少なくなって来ましたので、僕はガソリン補給。
番頭さんはそのまま走って行きました。

そして、ガスを満タンにして、再びコースへ復帰。
暫く走ると、番頭さんが道端に止まっていて、何やらバイクの修理中のようです。
止まって、「どうしました?」って聞くと、
「見ないで!SSに備えてバイクに秘密のチューニング中なんだからあ!」

ははは。
という訳で、番頭さんの秘密は見ないで出発。
いやー、秘密のチューニングって何かな???
興味をそそります。番頭さん、今度教えてね。

さて、この日二本目のSS、SS10は17時開設です。
ちょっと余裕があるので、バイクを道端に止めて自動販売機の所で休憩します。
こうやって、山里の風景をぼんやり眺めているのも、いいですね。
コーラを飲みながら、しばし、ぼーっと景色を眺めて過ごししました。

SS10は、ちょっと登りの普通の林道です。
例によって快調に走り、無事無転倒完走をゲット。
SS10の後も林道は続きます。ゆっくりと山の景色を楽しみながら走ります。
山を下りると、まだ明るい内に今日のビバーク地へ到着。
ビバークは、廃校となった小学校でした。校庭の跡と思われる広場にテントを張ります。
ちょうど同じタイミングで帰って来た#9やまもとさんの隣です。

何と今日はフロがあるそうです。空いているうちにということで、早速、入りに行きました。
最大4人が限度という、こじんまりとしたフロでしたが、
しかし、久しぶりのフロは気持ち良かったですねー。

フロの後は、晩飯です。
山盛りのメシを抱えて、さてどこで食べようかなーと見渡すと、
何か一人ぼっちで寂しそうに食べている人がいました。
で、「ここ、いーですかあ?」と聞いて、座ります。

その内に、#40工藤さんも「ここ、いーですかあ?」と同じテーブルに。
#40工藤さんとは、二日目から不思議と良く一緒になりました。
工藤さんはSSER初めてだそうですが、着実に走られています。
明日一日、無事に走破できれば完走ですね。

で、その一人ぼっちの人、バイクは何ですかって聞くと、「KTM」とのことで、
KTMがいかに素晴らしいバイクであるかを力説されます。

 「普通にアクセル開けるだけでフロントが浮くんだ」
 「純正パーツだけでラリー装備が全て揃うんだ」
 「壊れても、パーツは意外と安いんだ」
 「KTM、いいバイクだよー」

で、話を聞いていると、どうも広島弁のような・・・。
「ひょっとして広島のKTMさんですか?」
って聞くと、当たりでした。#81前田さんです。
そうです。あの前田さんでした。

前田さん、KTM広島で働いている社員なんだそうです。
KTMの看板を背負っているので、どうしても負けられないそうですが、
今日の朝のSSでコーステープを切ってしまったとのことで、
ちょっと落ち込んでいたのだそうです。

で、なんで前田さんがテープを切ってしまったのかと言うと、
「ジャンプして着地した地点に、たまたまテープがあったんや」
いやー、あの難所で、いったい何mジャンプしたのでしょうか・・・。

で、「どうやったら、そんなに速く走れるようになるんですかあ?」 って聞きます。
すると、前田さん、「うーん・・・」とちょっと考えた後、
自分より、ちょっとだけ速い人の後ろを走って、その人の走り方を勉強することかな?
 僕もそうやって速くなった。ちょっとだけ速い人じゃないとだめ。バイクは何?」
「スーパーシェルパ」
「シェルパかあ。僕も乗ってたよー。いいバイクだよね。すごく速いバイクだよ。」

あっちの世界でテープを切って落ち込んでいる前田さんと、
こっちの世界でガケから落ちてしまった僕。
その技術は天と地ほどレベルが違うけど、練習する方法は同じみたいですね・・・。
楽しいひとときでした。

(今日の一言)
明日で終わりかあ・・・。残念だなあ。