5月3日


(前編)

ふと目が覚めると、遠くの方でバイクが走る音がします。
ぶううううううーーん。 ぶうううううううーーーん。
うーん、バイクが走ってるなあ・・・うーん今何時?・・・

で、がばっと飛び起きました。
「ひょっとしてもう朝?」
しまった・・・もうSS始まっちゃった?寝過ごしちゃった・・・?

でも、ちょと外を覗くと、まだ外は真っ暗です。なーんだ、まだ夜か。

耳を澄ますと、バイクの音はまだ響いています。
ぶうううううーーん。ぶわあああああーーーーん。
その音は、何となく森の奥の方から聞こえてくるように聞こえます。
2サイクルのモトクロッサーのようです。

SSERの人が夜の美馬をモトクロッサーで試走してるのかなあ?
好きだなあ・・・。などと、とりとめのないことを考えます。

そして、鳴り響くモトクロッサーの音を聞いている内に、ふと気付きいたのです。
それが、い・び・きの音だということを・・・。
という訳で、丑三つ時のモトクロスは、夜の美馬を舞台に、朝まで延々続けられたのでありました。

さて、その内に夜も明けて、いきなり朝がやって来ました。
今日は基本的にはレストデイと言うことで、ラクチンルートらしいのですが、さすがにSSERさん、そんなに簡単に休息させてはくれません。
朝一は泣く子も黙る美馬のSSです。

さて、毎日のことながら、スタート順の発表を見に行きます。
すると、41位→38位と、またまた3ポイントアップ。
いよいよ30位軍団に突入です。
いやー、昨日のSS8は、ドロだらけになって頑張っただけに、これは嬉しいですね・・・。

テントを片付けながら、すぐ隣にテントを張っていた#70真田さんと色々と話をします。
真田さん、アフリカツインで参戦されているのだそうです。
そして、何と前日迄の順位が13位。インターナショナルクラスのトップです。
しかし、あの20年前に設計された重量200kgを越える重いアフリカツインでトップクラスのタイムを叩き出すとは・・・。
僕も、今回はシェルパだけど、じつは、アフリカで1stTDNに参戦しただけに、アフリカツインは思い入れがあるバイクです。
ぜひ頑張ってほしいと伝えます。

さて、その問題のSS9ですが、それはもう非情なまでに難しいとの噂。早速ちょっと見学に行きます。
すると、スタート地点のすぐ横に、ものすごい斜度の坂(いやガケ)があります。
上部は45度以上ありそうです。絶壁です。
で、オフィシャルさんに他の人が質問しています。

「ここ、登りですか?」
「ええ。登りですよ」

「こ、こ、ここを登るの?」
思わず絶句・・・。うーん。こりゃ確かに大変だ。

さて、時間のたつのは早いもので、あっと言う間に7時30分。朝のブリーフィングの時間です。
そして、朝のSSについては、コース作成者である池町さんからコースの説明がありました。

 「前半は、昨日のコースとはかなり趣向を変えてあります。全く違うコースと思って下さい。
  難関は、モトクロスコースの最後にある急坂です。ここは今回のSSの中で一番難しい。
  上から坂を見下ろすことができるので、後で見ておいて下さい。
  一応、大型車のために迂回コースを作ってあります」

 「ほっ」インターナショナルなエントラントの安堵の声が聞こえます。
で、エントラントから質問です。

 「大型車はあの登りはパスして、迂回コースを走る訳ですね?」

で、SSERの山田さんから回答です。

 「当然最初は全員あそこを上って貰います。迂回コースを走るのは何度トライしても登れない人だけです」

という訳で、インターナショナルな皆さん、再び顔がひきつっています。
そして、再び、池町さんからのコース説明。

 「で、その先はウッズセクションです。ここは非常に長いです。山の尾根づたいに、はるか彼方迄行くルートです。全コースを歩くと1時間以上かかりました。途中、倒木越えを始め、難所をたくさん用意しました。難所には、オフィシャル要員を配置していますので安心して下さい」

という訳で、今日のSSは先ほどのガケはもとより、他にも難所てんこもり。かなり難度が高そうです。
ということは、ふふふ、きっとシェルパにはかなり有利なセクションとなるはず・・・
などと、こっそり胸の中でたぬきの皮の数を数えている私。
いやー思い返してみると、アマアマの甘納豆です。

という訳で、いよいよSS9スタートです。

 

スタート地点から暫くは、昨日と同じルートです。大きな石がゴロゴロ転がっているので、緊張しますが、何とか通過。
暫く行くと、大型バイクが一台、横倒しになっています。
早速救助活動。すぐ後ろから来た#69高橋さんも加わって3人でエイヤーっとバイクを溝から引き上げました。

その先、今度は、途中に高さ5mはあろうかと言う垂直に近い下りのガケが出現。
ここは、下りるというよりは落ちるという感じなので、かなり度胸が必要ですが、一旦落ち始めてしまえば、後は野となれ山となれ。まあ、意外と大丈夫でした。
という訳で、何とかモトクロスセクションは無転倒で無事通過。さて、これからが本番。あのガケの登りとロングなウッズセクションです。

そして、ついにガケの下に到達しました。下から見ると、完全なあり地獄状態。助走でかなりスピードつけないと登りそうにないので、
フル加速して坂の登り口にアプローチ。
「イケー」、「負けるなー」、「倒産するなー?」 愛車シェルパにムチを入れます。

そして、登り始めると、次第にバイクの角度が急になって来て、速度が落ちてきました。
で、失速しないよう、さらにアクセルを開け続けます。
で、ふと気が付くとバイクは既に坂の上に到達しています。
で、その状態でもアクセルは開いたままの状態・・・、
で、バイクは垂直を通り越してバク転しそうな雰囲気です・・・。

「や、やばいぞ・・・」
「このままだと、ひっくり返るぞ」
「どうすればいいんだ」
「取りあえずバイクだけは坂の上に到達させないと」
「そのためには・・・」


てなことを、0.2秒の間に検討した結果、一つの結論が出た。それは・・・

「バイクをあっち側へ放り投げろ!」

という訳で、ハンドルを持つ手に渾身の力を込めて、バイクをあっち(坂の上)へと放り投げます。
で、無事バイクがあっちの世界の住人となったのを見届けた後、
私はこっちの世界へ・・・そう、あのガケの下へと転がり落ちて行ったのでした・・・。


つづく・・・・